ふきよせるかぜになびく文

根無し草の戯れ言です。労働とか文化とか。

マラソンとチケット 後編

 これは僕の体感だが、ランナーのランニング用レギンスの着用率は98%である。レギンスを履いてると見てわかるのだから、ランニング用レギンス+ショーツ率のことだ。僕はランニングタイツこそ履いていたが、その上に長いスウェットを着ていた。これがとんでもない少数派なのだ。別に僕もレギンス+ショーツで走ることもあるが、「冬だしスウェットでいいや」と下した安易なチョイスのために、とんでもないオールドスタイルとなってしまった。その一方で、最新のアップルウォッチを着けており、時代設定が完全に錯綜している。

 マラソンという行為は「しんどい」と思われるかもしれないが、どちらかというと「ヒマ」である。特に残りの距離が半分を切り、感覚的に「完走はいけそうだ」となってからのヒマは極まる(特にタイムの目標がない場合)。僕の場合は小うるさいアップルウォッチのラップタイムのお知らせを制しつつ、自分と同じようにレギンスを見せないランナー、いわば黒電話ランナーとも言うべき同志を探しながら走ることで時間を潰した。後半はほとんど抜きつ抜かれつするランナーたちの下半身ばかりを見ていたので、着用率98%というのは実に正確なデータである。

 他人の下半身を凝視することにも飽き、今後の人生の展望などに思いをめぐらせているうち、ドラマ性もなく僕はゴール地点を通過した。ラップタイムを確認すると最後の1キロが最も速い。意外にも余力を残せたのは、十全の準備によるところが大きい。職を失っている強みだ。タイムも距離10キロを走った時よりも少し速いくらいのペース。まぁ朝から色々と面倒なことはあったし、走り出してからもあれこれ考えることは多かったけれど、結果的にいいマラソン大会だった……という怒涛の一連があった場合、誰がチケットのことを覚えているだろうか。

 僕がチケットのことを思い出したのは昼の2時過ぎ。チケットの販売開始から4時間以上が経っていた。チケットのことを忘れていたというより、あれだけ気に揉んでいた10キロのタイムから逆算してチケット販売開始に間に合うか否かうんぬんのキャンペーンが丸ごと記憶から吹き飛んでいた。

 結局、土日のチケットは完売。仕方なく平日のチケットを購入することができたけど、公演日である5月下旬の平日に僕が何をしているのか。全く予想ができない状況である。